そのとき彼はようやく全てを受け入れることができた。 魂のいちばん底の部分で多崎つくるは理解した。 人の心と人の心は調和だけで結びついているのではない。 それはむしろ傷と傷によって深く結びついているのだ。 痛みと痛みによって、脆さと脆さによって繋がっているのだ。 悲痛な叫びを含まない静けさはなく、血を地面に流さない赦しはなく、 痛切な喪失を通り抜けない受容はない。 それが真の調和の根底にあるものなのだ。